心に残った話 - ヘルパーステーション
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心に残った話

    言葉でつながる心

    N様という、耳も遠くなられ、目も見えにくくなってきた92歳の男性の利用者様がいらっしゃいます。
    ある日伺うとN様はテレビも点けず「毎日毎日ベッドの中で、何にもする事が無くなってしまった・・」と、ボソリと仰いました。
    そこで、「それなら、毎日ここで一緒にすごされる奥様の事を俳句に詠まれたらどうでしょうか? 」と私が申し上げると「そうねぇー」と黙ってしまわれました。奥様がおっしゃるには、「こうしている時はね、何か考えているんだわ」とのこと。しばらくするとN様がおもむろに口を開かれ

    「命綱 妻の笑顔で 張りが出る」続けて、「毎日が 妻のおかげで 生きられる」

    心に残った話

    と詠まれました。奥様に「こんな心温まる句を詠んでいただけて嬉しいですねぇ」と言うと、奥様はこう仰いました。「それはね、お互い様なの。私もこの人がいるから生きていられるの」と。

    とても美しい夫婦の支え合いの想い。
    一件一件のお宅に伺うなかで、いつも思うことは、様々な事を学ばせていただくご恩返しに、何か一つでも利用者様の希望に繋がることをお伝えできればと、そんな想いが込み上げます。この新鮮な気持ちを忘れず、これからも努めてまいります。

    霊との会話

    81歳のS様。普段はご主人が懸命な介護をされているのですが、寝たきりになってから感情が荒く激しくなり、介護拒否をされるそうです。ヘルパーにもベッド柵を取って投げつけたり、食事介助はお盆ごと放り出したりすることもあるということでした。

    私はそのお宅へ新しいヘルパーとして伺うことになりましたので、訪問日の一週間前から毎日、S様を頭の中にイメージして、話しかけてみました。
    『今まで本当に辛かったですね。どんな痛みも苦しみも辛さも、私にぶつけてください。今までの無念も悔しさも、私が受け止めます。私がこの胸で抱きしめますから』と。

    訪問当日。S様にご挨拶すると、無言でジロリと見られましたが、手を握らせてくださいました。
    「S様、今日は初めてお会いできて、とても嬉しいです。抱きしめさせていただいてもいいですか?」とお聞きすると、コクリと頷かれましたので、私は「ありがとうございます」と言って、S様をそーっと抱きしめ、頬が触れたのでピッタリとくっつけました。その日はすべての介助を終えるまで、S様は全く騒がず、大きな声も出されず、介助を受けてくださいました。

    この様子を見ていたご主人より、「今日は静かだったけれど、普段は酷いんだからね」と言われました。
    ご主人の言葉通り、S様が介護を激しく抵抗される時もありました。

    ある日、S様が左手でヒラヒラと私を呼ぶような仕草をして、更に左手で自分の右胸をトントンと叩かれましたので、なんだろうと私は立ち上がり、側に行きました。「何ですか?」とお聞きしし、顔をのぞき込んだその瞬間、S様の想いが伝わって来たのです。
    私は腕を丸めて抱きしめる仕草をして「これですか?」とお聞きすると、S様はコクンと頷かれました。
    もう驚くやら、嬉しいやらで、涙も込み上げましたが、頬をピッタリ付けて「S様が大好きです。沢山たくさん大好きです。ありがとうございます」と、夢中になってS様を抱きしめました。

    この時の驚きと感動の想いを忘れず、どんな利用者様にも「相手の方の霊(魂)に向かって、礼儀と真心を尽くした介護をして行こう」と決意を新たにいたしました。

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